2024.04.12診療報酬改定2024による質の高い医療推進と医療保険制度の安定・持続性の向上

2024年度の診療報酬改定における基本方針である「安心・安全で質の高い医療の推進」と「効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」では、今後も安定した医療を提供するための見直しが多くされました。

療養の場が医療機関だけでなく自宅を含めた在宅に移行せざるを得ない状況の中で、患者にとって安心・安全な医療を確保し、医療制度の安定性・持続可能性を高める取り組みが必要です。

2024年度の診療報酬に関する見直し内容や要件について、詳しく解説していきます。

推進される外来での質の高い腫瘍化学療法へ

日本での死因第1位である「悪性腫瘍」ですが、医学の進歩により社会生活を継続しながら治療を行う人も増加傾向です。

2024年度の診療報酬改定において、腫瘍化学療法に関連した見直しが行われ、外来での化学療法の評価を高くし推進する動きが見られました。

外来での腫瘍化学療法実施の改定内容や、医療職種間の連携の重要性について解説していきます。

外来腫瘍化学療法診療料の厳格化

高齢者増加による入院病床の確保が重要課題となる今、外来での安心安全ながん医療を提供するために「外来腫瘍化学療法診療料」の見直しが行われました。

外来腫瘍化学療法診療料1の施設基準の追加要件

がん性疼痛緩和指導管理料の届出を行っていること

・がん患者指導管理料のロの届出を行っていることが望ましい

・選任の常勤医師の研修要件(緩和ケア研修等)の追加

外来腫瘍化学療法診療料1-3の施設基準の追加要件

・患者が事業者と共同して作成した勤務情報を記載した文書を、医療機関に提出した場合の療養上の必要な指導の実施について、ウェブサイトに掲載していることが望ましい

・患者の急変時等の対応に関する指針の整備が望ましい

・外来化学療法の体制(24 時間対応できる体制があること等)について、ウェブサイトに掲載

また、今回の見直しでは24時間体制を確保できていない診療所での化学療法において、地域の医療連携が行われている場合「外来腫瘍化学療法診療料3」が新設されました。

 

外来腫瘍化学療法診療料3(新設)

評価

イ 抗悪性腫瘍剤を投与した場合

(1)初回から3回目まで         540点

(2)4回目以降             280点

ロ イ以外の必要な治療管理を行った場合 180点

概要

外来腫瘍化学療法診療料1の届出医療機関において副作用等による有害事象等への対応を行った場合を評価。

施設基準

・外来来化学療法のための専用ベッドを有する治療室を保有する

・急変時等の緊急時に「当該患者が入院できる体制の確保」または「他医療機関との連携により緊急時に当該患者が入院できる体制の整備」を行う

参考:令和6年度診療報酬改定の概要【外来】P15・16|厚生労働省

外来腫瘍化学療法診療料1を取得する医療機関は、連携医療機関の名称等をあらかじめ地方厚生(支)局長に届け出て、連携医療機関の名称等について院内の見やすい場所に掲示する必要があります。

実際に診療3の医療機関より緊急的な副作用などで診療料1の医療機関を受診した際、診療料1の胃腸期間は350点(抗悪性腫瘍剤の投与以外の治療管理を行った場合の点数)を算定できます。

がん薬物療法体制充実加算の新設 

「がん薬物療法体制充実加算」は、外来腫瘍化学療法診療料1を取得している施設において、医師の診察までの待ち時間を利用して、薬剤師が服薬状況や副作用の確認、服薬状況の確認、処方提案を行った場合の加算評価が新設されました。

 

がん薬物療法体制充実加算

評価

100点(月1回限り)

概要

・外来腫瘍化学療法診療料1の「イ」の(1)を算定する患者に対して薬剤師が、医師の診察前に服薬状況、副作用の有無等の情報を患者から直接収集し、評価を行った上で、当該医師に当該患者に係る情報提供、処方提案等を行う場合に算定。

・指導内容等の要点を診療録、薬剤管理指導記録に記載、患者説明に用いた文書の写しを診療録等に添付が必要。

施設基準

・外来腫瘍化学療法診療料1を取得。

・化学療法に係る調剤経験5年以上、40時間以上のがんに係る適切な研修を修了し、がん患者に対する薬剤管理指導の実績を50症例以上を有する専任の常勤薬剤師を配置。

・プライバシーに配慮した構造の「個室」が使用できる。

・薬剤師からの情報提供を元に医師が適切な診療方針を立てられる体制が整備されている。

参考:令和6年度診療報酬改定の概要【外来】P19|厚生労働省

外来化学療法は採算性が難しいですが、院内での専門性に応じた患者へのアプローチをうまく活用することで新たな加算が算定できる点は大きいでしょう。

厳しい見直しを迫られる短期滞在手術等基本料

2024年の診療報酬改定では短期滞在手術等基本料は、入院外での実施状況を踏まえて評価が見直され、厳しい見直しとなりました。

短期滞在手術等基本料1(日帰り)では、(イ)主として入院で実施されている手術を行った場合と、(イ)以外で算定評価を分けることにしました。

 

短期滞在手術等基本料 1(日帰りの場合)

評価

(イ)主として入院で実施されている手術を行った場合

(1)麻酔を伴う手術を行った場合 2,947 点

(2)(1)以外の場合 2,718 点

(ロ)イ以外の場合

(1)麻酔を伴う手術を行った場合 1,588 点

(2)(1)以外の場合 1,359 点

参考:短期滞在手術等基本料の概要|厚生労働省

(ロ)に関しては新設された算定評価ですが、以前まで(イ)で算定していた手術であっても入院で実施されていない手術の場合には約半数の引き下げとなっています。

また、短期滞在手術等基本料3(4泊5日)に関しても大きな引き下げがあり、具体的には眼科領域では「両眼」算定が新設されたことも大きな話題を呼びました。

他にも、地域包括ケア病棟入院の算定要件の計算対象から除外することで、療養病棟の在宅復帰率を適切に評価できる体制となりました。

引用:短期滞在手術等基本料の概要|厚生労働省

高齢社会における在宅を療養の場の適正化

2024年の診療報酬改定では、在宅医療の領域でも多くの適正化が行われました。

単一建物診療患者数による細かな評価の新設や、終末期医療を除く患者に対しての往診回数の評価の見直しがあります。

一方で、ICTを用いた平時からの地域連携を支援する評価を新設するなど、在宅医療に関する評価にも注目です。

診療患者数や診療回数に応じた評価の見直し 

在宅時医学総合管理料および施設入居時等医学総合管理料では、単一建物診療患者の数が10人以上19人以下、20人以上49人以下、50人以上の評価を新設しました。

同一建物で診療する人数が多くなるほど評価算定が引き下げられる形となります。

他にも、直近3ヶ月の訪問診療の算定回数が2100回を超える医療機関について、単一建物診療患者の数が10人以上である患者に関しては現行の60/100に評価が見直されました。

在宅患者訪問診療料では在宅療養支援診療所及び在宅療養支援病院について、過去3月の患者一人あたりの訪問診療の回数が平均で12回を超える場合に、算定評価が50/100と引き下げられています。

終末期医療を受けている患者の訪問回数が増える場合には問題ありませんが、必要性が低い患者や単一建物の診療状況に対して、2024年の改正により評価が厳しくなったといえるでしょう。

ICTでの情報連携を評価した加算の新設

在宅療養を行っている患者に対して、情報連携を評価した加算の新設が行われました。

引用:令和6年度診療報酬改定の概要【在宅(在宅医療、訪問看護)】|厚生労働省

在宅保険施設等との連携強化に対して、介護保険施設等連携往診加算として評価されます。

平時から連携体制を構築している医療機関の医師が、介護保険施設等の入所者の病状急変時に往診を行った場合、200点の加算です。

緊急時の連絡体制及び入院受入体制等を確保する必要があります。

在宅医療情報連携加算では、他の保険医療機関等の関係職種がICTを用いた診療情報を活用し、医師が計画的な医学管理を行った場合に100点の加算で評価されます。

介護保険施設等連携往診加算と在宅医療情報連携加算では、連携している介護保険施設や医療機関の名称等について、院内もしくはウェブサイトへの掲載が必要です。

地域での24時間提供体制の構築に対しては、往診時医療情報連携加算として評価されます。

在支診や在支病では、定期的なカンファレンスもしくはICTの活用し連携構築している在支診・在支病以外の保険医療機関で訪問診療を受けている患者に対して、往診を行った場合200点加算となります。

在宅医療の現場においても自院だけで完結する医療とするのではなく、地域医療機関や介護施設とのICT活用による情報共有と定期的な連携が必要不可欠です。

医療保険制度の安定性・持続可能性を高めるために

2024年の診療報酬改定の基本方針である「効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」に向けて、国民皆保険を維持するために制度の安定性・持続可能性を高める取り組みが必要です。

今回は医療サービスの効率化・適正化を図るために見直された、後発医薬品やバイオ後続品の使用促進、長期収載品の保険給付のあり方について解説します。

長期収載品の自己負担の見直し始まる 

後発医薬品発売から5年以上経過したもの又は後発医薬品への置換率が50%以上になった長期収載品を対象に、後発医薬品の最高価格帯との価格差の4分の1を自己負担する方針となりました。

現状2023年度の薬価調査ベースによると、約700成分が対象です。

医療現場や患者への制度周知や体制整備を鑑みて、2024年10月から施行します。

疾患により診療ガイドライン上で薬剤変更が適切でないと認められる場合や、薬局に後発医薬品の在庫がない場合には引き続き保険給付の対象となります。

今回の改定により特定薬剤指導管理加算3が新設され、調剤前に医薬品の選択に係る情報が特に必要な患者に説明及び指導を行ったときに算定できます。

患者1人につき当該品目に関して最初に処方された1回に限り、それぞれ5点を加算できます。

患者への長期収載品の処方に対する説明が必要となりますが、薬局との連携を構築することにより薬局にも算定加算の機会が得られ、医療機関の働き方改革にも繋がるでしょう。

ジェネリックの詳細と実態把握の必要性

長期収載品の見直しを行う際に、ジェネリックは細かく分類されることを理解し状況に応じて患者への情報提供が必要です。

長期収載品を長く利用している患者において、後発医薬品への切り替えがスムーズにいかない場合が多いのが実態です。

ジェネリックとは先発薬と同じ有効成分を含み同じ効果を示す薬品を示しますが、その中でもオーソライズドジェネリックは先発薬品メーカーが認定し、成分だけでなく、原薬、添加物、製造方法が全て同一であるものをいいます。

また、オーソライズド・ジェネリックには2種類あり、原薬、添加物、製造方法、製造場所の全てが長期収載品と同一の「オートジェネリック」と、添加物や製造方法が異なる「オートジェネリックではないもの」に分別されています。

見分け方としては、生物学的同等性(BE)試験試験が義務付けられているかどうかです。

薬剤添付文書やブルーブックにも掲載されているので、使用検討の際には確認が必要です。

長期収載品の継続では後発品との差額4分の1が負担となるため、経済的負担を軽減し1日でも長く服用できるように、患者の必要性に応じてジェネリックの説明を行う必要があります。

バイオシミラーに関する見直し

後発医薬品の1つであるバイオシミラーに関して新たな目標設定がされ、バイオ後続品導入初期加算の見直しと、バイオ後続品使用体制加算の新設がありました。

以前よりあったバイオ後続品導入初期加算では在宅自己注射と外来化学療法における初期加算を撤廃し、全ての外来患者が対象となりました。

患者に対して医師より「バイオ後続品の有効性・安全性などを十分に説明する」ことを評価した形です。

また、今回の改定では入院患者にバイオシミラーを導入した場合、バイオ後続品使用体制加算を入院初日に100点の加算とする算定を新設しました。

しかし加算要件のハードルは高く、以下の要件をいずれも満たす必要があります。

・バイオ後続品の使用回数が100回を超えていること

・2段階にわけた使用割合に達すること

規格単位数量の割合:80%以上

規格単位数量の割合:50%以上

エポエチン

ソマトロピン

インスリンリスプロ

リツキシマブ

インフリキシマブ

インスリンアスパルト

トラスツズマブ

エタネルセプト

アダリムマブ

テリパラチド

アガルシダーゼベータ

ラニビズマブ

 

ベバシズマブ

 

注)共に当該成分の規格単位数量が50未満の場合を除く。

加算要件となる薬剤名に注目してみると、エポエチンやインスリンなど慢性腎臓病に関連した薬剤が多いことがわかります。

「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」改定案とは 

記憶に新しい2020年に発覚した医薬品供給不安が発症し、必要な患者に医薬品が十分に届かないという保険衛生上重大な問題が生じたことを踏まえて、2022年9月に有識者検討会が立ち上げとなりました。

そして2024年3月1日付で医薬品特有の取引慣行や過度な薬価差等を是正し、適切な流通取引が行われる環境整備により、さらなる流通改善を図っていくための流通改善ガイドラインが発表されました。

流通関係者と医療機関との関係において留意する事項は以下のとおりです。

・早期妥結と単品単価交渉に基づく単品単価契約の推進

・医薬品の価値を無視した過大な値引き交渉及び不当廉売の禁止

・頻繁な価格交渉の改善

医薬品の安定供給を確保する観点から、医療上必要性の高い基礎的医薬品、安定確保医薬品(カテゴリーA)、不採算品再算定品、血液製剤、麻薬及び覚せい剤については、ここの医薬品の価値を踏まえた単品単価交渉をすることが盛り込まれました。

他にも、取引条件等を考慮せずベンチマークを用いての一方的な値引き交渉や取引品目等の相違を無視して同一の総値引率を用いた交渉、取引条件等を考慮せずに同一の納入単価での取引を各卸売業者に求める交渉を行わないように遵守すると記載されています。

今後のジェネリック医薬品への移行を推進する中で、医薬品の安定供給に対してのガイドラインの詳細内容には注視する必要があります。

まとめ

2040年にピークを迎える本格的少子高齢社会が差し迫っている中、安心・安全で質の高い医療を確保する取り組みは必要不可欠となっています。

病床確保が難しくなる現状だけでなく、あらゆる療養生活におけるニーズに対応すべく、医療現場のあり方も見直す段階となりました。

2024年度の診療報酬改定では入院関連だけでなく、在宅や外来に関連する評価の見直しが多くありました。

経過措置期間においては、医療関係機関では内容把握と並行して、医療体制の変更検討が必要となってくるでしょう。

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